製造業の経営判断に役立つ、3つの統計と活用法
製造業を営む経営者の皆様にとって、「いつ設備投資をすべきか」「どの業界への営業を強化すべきか」「在庫をどう調整すべきか」といった判断は、企業の命運を左右する重要な意思決定です。
しかし、日々の業務に追われる中で、景気の流れを正確に捉えることは簡単ではありません。
そこで活用したいのが、国や業界団体が公表している統計資料です。
本記事では、その中でも特に重要とされる「工作機械統計」「機械受注統計調査報告」「全国企業短期経済観測調査(日銀短観)」の3つの統計資料に焦点を当て、それぞれの特徴、指標の見方、そして具体的な活用方法を、分かりやすく解説します。
3つの統計の概要
各統計資料は、それぞれ調査対象や発表タイミング、得意とする領域が異なるため、景気の全体像を正確に捉えるためにも、3つの資料すべてを活用することが大切です。
| 時間軸 | 主な目的 | 優先統計 | 発表頻度・タイミング |
| 短期 (1〜3ヶ月) | 足元の受注予測・変化の察知 | 工作機械統計 | 毎月 (10日前後に速報) |
| 中期 (3〜6ヶ月) | 設備投資の実行・波及効果の判断 | 機械受注統計 | 毎月 (中旬〜20日頃) |
| 長期 (6ヶ月〜) | 中長期の戦略策定、予算の設定 | 日銀短観 | 四半期 (4, 7, 10, 12月の初旬) |
工作機械統計
工作機械統計(日本工作機械工業会)は、「機械を作るための機械」である工作機械の受注動向に特化した統計です。
工作機械は製造業の根幹を支える設備であるため、その動向からは製造業全体の設備投資動向や景気の先行きを読み取ることができます。
また、毎月10日前後に発表され、データが「内需業種別」「外需国・地域別」に細かく分類されているため、自社の顧客がいる業界や、輸出先の国の景気動向を、素早く・ピンポイントに把握することが可能です。
統計からわかること
- 需要の全体感とトレンド
- 国内の業種別の受注額
- 海外の地域や国別の受注額
- 生産・販売・在庫の台数や推移
需要の全体感とトレンド
受注総額の推移、前月比、前年同月比といった指標から、市場が拡大しているのか停滞しているのかがわかります。
国内の業種別の受注額
一般機械、自動車、電気・精密、航空機・造船といった業種ごとに、どこで設備投資が活発化しているかがわかります。
例えば、2025年11月確報では「航空機・造船・輸送用機械」が前年同月比304.3%と、3倍の伸び率を示していますが、機械製造業全体で見ると前年同月比98.7%であることがわかります。
海外の地域や国別の受注額
アジア(中国、インド等)、欧州(ドイツ、イタリア等)、北米(アメリカ等)といった国・地域別の受注額から、世界経済のどのエリアが好調かがわかり、海外展開を考える上での重要な判断材料となります。
生産・販売・在庫の台数や推移
受注だけでなく、販売額(売上)や受注残高、さらには生産台数や従業員数などの推移も記録されており、業界の供給能力や将来の売上見通しがわかります。
機械受注統計調査報告
機械受注統計調査は、内閣府が主要機械メーカーの受注状況を毎月調査・公表する資料であり、毎月の受注実績、販売額、および受注残高が掲載されています。
この統計の特徴は、実際の設備投資が行われるよりも前に発生する”注文”を捉えている点にあります。
カテゴリの幅も広く、エンジンに使う「原動機」や、発電所などの「重電機」、PCやスマホ関連の「電子・通信機械」、工場で使われる「産業機械」、さらに「鉄道車両」や「航空機」まで、設備投資に関わるあらゆる機械の受注状況がわかります。
そのため、民間設備投資の先行指標として、数か月先の景気動向を予測するのに非常に役立ちます。
統計からわかること
- 6ヶ月後の景気の方向性
- 業界ごとの設備投資の流れ
- 機械業界が抱える注文や在庫
6ヶ月後の景気の方向性
設備投資は、企業が将来の需要拡大を見込んで行うものであり、発注後すぐに設備を稼働できるわけではありません。
発注を受けた機械メーカーが数ヶ月かけて製造し、納品・設置を行い、ようやく設備投資が完了します。
つまり、機械受注が増加していれば、「今後半年以内に、製造業の生産能力が拡大する」「設備投資に伴う部品や素材の需要が増える」といった予測ができます。
業界ごとの設備投資の流れ
機械受注統計には、製造業だけでなく、農林漁業、建設業、通信業、卸売業・小売業、リース業など、非製造業を含む幅広い業種の内訳が記載されております。
業種ごとの偏りを見ることで、今どの業界に勢いがあって、どの業界が慎重になっているかという「温度差」や「お金の動き」がわかります。
例えば、製造業全体がマイナスでも、情報サービス業が大幅プラスであれば、「サーバー機器やデータセンターへの投資が活発である」といった推測ができます。
機械業界が抱える注文や在庫
統計には受注額だけでなく、未納品分の金額を指す「受注残高」や、それを消化するのに何ヶ月かかるかを表す「手持月数」も記載されています。
※手持月数=月末受注残高/前3か月平均販売額
この手持月数が伸びていれば、受注は増えているが、供給が追いついていないことを意味します。
全国企業短期経済観測調査(日銀短観)
全国企業短期経済観測調査(日銀短観)は、日本銀行が四半期ごとに行うアンケート調査です。
企業の景況感、売上・利益計画、設備投資額、雇用状況、物価見通しなど、日本経済の現状と先行きを占うための、信頼性の高い指標です。
統計からわかること
- 製品の需給バランス
- 製品の在庫水準
- 販売価格・仕入価格の動き
- 雇用人材の過不足
- 設備投資の計画
製品の需給バランス
国内での製商品・サービス需給判断では、「製品の売れ行きが良い状態」なのか「製品の売れ行きが悪い状態」なのかが読み取れます。
例えば、短観(概要)2025年12月では、製造業の最近の判断が「-17」、先行きに関しても「-17」であることから、売れ行きが良くない傾向であると考えられます。
製品の在庫水準
在庫水準を測る指標は、製商品在庫水準判断(自社の在庫)と製商品流通在庫水準判断(販売業者の在庫)という2種類に分かれています。
製商品在庫水準判断(自社の在庫)では、メーカー自身が抱えている在庫が、現在の売れ行きに対して適正かどうかを判断する指標です。
これがプラスであれば、在庫が余っている状態であり、生産量を減らす必要があるかもしれません。
反対にマイナスであれば、在庫が足りない状態であり、受注拡大のチャンスです。
製商品流通在庫水準判断(販売業者の在庫)では、メーカーから出荷された製品が、卸売・小売などの流通過程でどれくらい滞留しているかをメーカー側が判断した指標です。
これがプラスであれば、販売店の倉庫に在庫が余っている状態であり、メーカーにとっては、次回の注文が減るリスクがあります。
反対にマイナスであれば、品薄な状態を意味し、メーカーへの追加注文が期待できる明るい兆しです。
| 指標名 | 誰の在庫か | 数値がプラスの意味 |
|---|---|---|
| 製商品在庫水準判断 | 自社(工場や倉庫)の在庫 | 自社に製品が余っており、生産調整の検討が必要 |
| 製商品流通在庫水準判断 | 取引先(問屋・小売)の在庫 | 市場に製品が余っており、受注減のリスクがある |
販売価格・仕入価格の動き
価格判断からは、販売価格と仕入価格の、「値上げの実施」と「今後の予定」がわかります。
販売価格判断において、「最近」の販売価格がプラスの数値である場合、「自社製品・サービスの値上げを既に実施した」、あるいは市場価格が上がっていると判断している企業が多いことを意味します。
「先行き」の販売価格がプラスである場合、調査時点から3カ月後にかけて「さらに値上げを行う予定がある」、あるいは市場価格がさらに上がると見込んでいる企業が多いことを意味します。
仕入価格判断では、「最近」の仕入価格がプラスである場合、「自社が支払う材料費や外注費などのコストが上がっている」と判断しています。
「先行き」の仕入価格がプラスの値である場合も、さらに仕入れ価格が上昇すると見込んでいる企業が多いことを意味します。
ただ、この資料で重要なのは、企業が仕入価格と販売価格をどう感じているかの差を見ることです。
例えば、短観(概要)2025年12月の製造業(中小企業)の状況を見ると、販売価格判断が「26」、仕入価格判断が「54」となっております。
これは、多くの企業が原材料費などのコストアップ分を、自分たちの製品価格に十分に反映できていない状態であることを意味します。
このように、販売価格と仕入価格をセットで見ることで、「コスト上昇に押されて値上げを検討せざるを得ない」という、現場の経営判断の背景を読み取ることができます。
雇用人材の過不足
雇用人員判断では、人手の過不足を(過剰と答えた企業の割合 ー 不足と答えた企業の割合)で算出します。
例えば、中小企業の製造業では「-27」、非製造業では「-48」と、深刻な人手不足の状態です。
しかし、現在はどの業種でもマイナス(人手不足)であるため、人手による解決は難しく、設備投資(省力化投資)への切り替えのチャンスとも捉えることができます。
設備投資の計画
設備投資の指標は、前年度の投資実績と比較して、今年度の投資額を何%増やす(または減らす)計画かという、金額の増減率を示しています。
この数値がプラスであれば「昨年より投資を増やす」という強気の姿勢ですし、マイナスの場合は慎重な姿勢であることがわかります。
また、「設備や土地への投資額」だけでなく、「ソフトウェア投資」や「研究開発投資」の項目も確認することで、どの分野への投資が行われるのかを読み解くことができます。
利益に結びつけるための活用法
ここからは、これらの統計データを経営に活かすためのアクションプランを3つご紹介します。
1.伸びている業界に営業活動を行う
使う統計:工作機械統計(内需:業種別)
- 毎月、自社の取引先の業界(例:自動車、電気・精密、一般機械)の受注を見て
伸びている業界を1つ決定 - その業界に対して、積極的な営業活動(訪問、提案、DM、展示会)の実施
景気が良い・投資意欲がある業界は、そもそも話が進みやすい傾向にあります。
伸びている業界に集中して営業することで、受注率が上がり、将来の経営リスクの分散も図れます。
2.生産調整と在庫管理による、作りすぎと欠品の防止
使う統計:日銀短観(製商品在庫水準判断/流通在庫水準判断)
- 「在庫が過剰(プラス)」ならば、生産・仕入を減少させる(在庫の適正化)
- 「在庫が不足(マイナス)」ならば、増産・原材料の早めの準備(欠品の防止)
在庫が過剰であれば、管理費が保管費が重くのしかかり、欠品は機会損失につながってしまいます。
これらの在庫水準を注視し、原材料調達の準備に活かしましょう。
3.販売価格の見直しや値上げ交渉の実施
使う統計:日銀短観(販売価格判断/仕入価格判断)
- 「販売価格判断 – 仕入価格判断」のマイナスが大きいほど、利益が削られているサイン
- マイナスが広がっているなら、価格判断を根拠に、値上げ交渉や販売額の見直しを実施
コストは、一度上がり始めると自然に元へ戻らないことも多いです。
数字に変化が出た段階で、少しでも早めに動くことで、利益を守ることができるかもしれません。
まとめ:統計を「羅針盤」として経営判断に組み込む
本記事でご紹介した3つの統計は、いずれも無料で入手でき、毎月または四半期ごとに更新される信頼性の高いデータです。
これらを定期的にチェックし、自社の経営判断に組み込むことで、
- 客観的な根拠に基づいた意思決定ができる
- 市場の変化を早期に察知し、先手を打てる
- 取引先や金融機関への説明力が高まる
といったメリットが得られます。
最初から完璧に理解しようとせず、まずは自社に関係の深い業種のデータだけを毎月チェックすることから始めてみてください。
継続することで、数字の変化から景気の潮目を読む力が自然と身についていきます。
統計データを羅針盤として活用し、確かな経営判断で企業の持続的成長を実現していきましょう。
本記事が、皆様の経営の一助となれば幸いです。